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鉄道公安官の歴史 第一話

はじめに

鉄道公安官、正式には鉄道公安職員と呼ばれる人たちのお話をさせていただきます。

 鉄道公安職員は、国有鉄道施設における警察官であり。警備員と異なるのは、司法権を持っていたことであり、当然のことながら令状請求権なども持っていました。
 また、武器の携帯も許可されており、拳銃の使用も可能でしたが、実際の「警乗」などでは拳銃を持つことはなく。その辺は警察官とは異なるところではありました。

    公安職員の司法権の適用範囲は鉄道敷地内だけと言うことで、限定的ではあり、例えば市中で鉄道施設等を破壊した被疑者を発見しても直接逮捕は出来ず、地元の警察に依頼するといった点が 異なっていました。
 鉄道公安職員はあくまでも、国鉄の職員であり警察組織に所属するものではなく、公安 室長から駅長にと言った転身もありました。 この辺が警察官とは異なるところであり、その指揮権は運輸大臣にありました。

戦前の公安制度と関連法制

戦前には、鉄道公安制度は有りませんでしたが、不特定多数の利用がある鉄道にあってその秩序を維持するものとして、旧刑事訴訟法第二五一条で「森林、鉄道其ノ他特別ノ事項ニ付司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者及其ノ織務ノ範囲ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム」と示されており、それを受けて、
鐵道省では、大正十二年勅令第五百二十八号(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件)に基づき、司法警察職員の権限が与えられていました。
 
以下、条文
 
第三条 左ニ掲クル者ニシテ其ノ所属長官其ノ官庁所在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ検事正ト協議シテ指命シタルモノハ第一号乃至第八号ノ二ニ掲クル者ニ在リテハ刑事訴訟法第二百四十八条ニ規定スル司法警察官ノ職務ヲ、第九号乃至第十四号ニ掲クル者ニ在リテハ司法警察吏ノ職務ヲ行フ
一 二等又ハ三等ノ帝室林野局出仕
二 猟場管守ノ事務ヲ担当スル三等ノ宮内省出仕
三 監獄又ハ分監ノ長タル者及看守タル者ヲ除クノ外監獄職員タル二級又ハ三級ノ法務庁事務官
四 営林局署勤務ノ農林事務官及農林技官
五 鉄道局又ハ鉄道局ノ事務ヲ取扱フ命令ヲ以テ定ムル地方官署勤務ノ二級又ハ三級ノ運輸事務官ニシテ国有鉄道ニ於ケル旅客公衆ノ秩序維持又ハ荷物事故防止ノ事務ヲ担当スルモノ、国有鉄道ノ駅長、車掌区長又ハ自動車区長タル二級又ハ三級ノ運輸事務官及国有鉄道ノ駅ノ助役タル二級又ハ三級ノ運輸事務官
六 北海道庁ノ営林区署勤務ノ二級又ハ三級ノ地方技官及三級ノ地方事務官
七 公有林野ノ事務ヲ担当スル北海道庁ノ二級又ハ三級ノ地方事務官及地方技官
八 狩猟取締ノ事務ヲ担当スル庁府県ノ三級ノ地方技官
八ノ二 経済監視官タル地方事務官
九 三等ノ帝室林野局出仕
十 第二号ニ掲クル者ヲ除クノ外猟場管守ノ事務ヲ担当スル宮内省職員
十一 看守タル法務庁事務官
十二 鉄道局又ハ鉄道局ノ事務ヲ取扱フ命令ヲ以テ定ムル地方官署勤務ノ三級ノ運輸事務官ニシテ国有鉄道ニ於ケル旅客公衆ノ秩序維持又ハ荷物事故防止ノ事務ヲ担当スルモノ、国有鉄道ノ駅、車掌区若ハ自動車区ノ助役又ハ車掌区若ハ自動車区ノ支区長タル三級ノ運輸事務官及鉄道手、国有鉄道ノ駅勤務ノ三級ノ運輸事務官又ハ鉄道手ニシテ専ラ国有鉄道ニ於ケル旅客公衆ノ秩序維持又ハ荷物事故防止ノ事務ヲ担当スルモノ並ニ国有鉄道ノ車掌タル三級ノ運輸事務官、鉄道手及雇員
十三 北海道庁河川監守タル三級ノ地方事務官
十四 経済監視官補タル地方事務官

注:上記勅令で、「司法警察官」とあるのは「司法警察員」、「司法警察吏」とあるのは「司法巡査」の意味である。

具体的には、駅長・助役・車掌区長・車掌の中から鉄道司法警察官吏を選抜して停車場と列車内の現行犯捜査に当たるとされていたそうです。
その後、その権限は鉄道営業法違反の罪の現行犯に限定したことで有名無実化、 戦後の混乱から旅客巡察員、荷物事故防止巡察員の制度が設けられ、従来の司 法警察官の権限を付与したのが始まりとされています。
その後、新刑事訴訟法一九〇条並びに、それを受けた、法律第二三四号「司法警 察職員等指定応急措置法」があり、車掌・駅長などにその権限が与えられました。
 
参考: 新刑事訴訟法一九〇条
 
 第百九十条 森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める。

参考:司法警察職員等指定応急措置法

昭和二十三年法律第二百三十四号
司法警察職員等指定応急措置法
第一条 森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、他の法律に特別の定のない限り、当分の間司法警察官吏及び司法警察官吏の職務を行うべき者の指定等に関する件(大正十二年勅令第五百二十八号)の定めるところによる。この場合において、同令第三条第四号中「営林局署」とあるのは「森林管理局署」と、「農林事務官」とあるのは「農林水産事務官」と、「農林技官」とあるのは「農林水産技官」とする。
第二条 他の法令中「司法警察官吏」とあるのは「司法警察職員」と、「司法警察官」とあるのは「司法警察員」と、「司法警察吏」とあるのは「司法巡査」とそれぞれ読み替えるものとする。
附 則
この法律は、刑事訴訟法を改正する法律(昭和二十三年法律第百三十一号)施行の日(昭和二十四年一月一日)から施行する。
附 則 (昭和二三年一二月一八日法律第二五〇号)
この法律は、刑事訴訟法を改正する法律(昭和二十三年法律第百三十一号)施行の日(昭和二十四年一月一日)から施行する。
附 則 (昭和二四年五月一四日法律第五八号)
この法律中第一条の規定は、日本国有鉄道法(昭和二十三年法律第二百五十六号)施行の日から、第二条の規定は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和六一年一二月四日法律第九三号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、昭和六十二年四月一日から施行する。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 公布の日
附 則 (平成一二年一二月六日法律第一三九号) 抄
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
 
続く
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