以下は、交通技術、1951年8月9月合併号の中の記事、「 桜木町事故その後 電 力 関係の事故防止対策についてから、該当する部分だけを抜粋したものです。
なお、この資料は桜木町事故国会審問(末尾にリンクを貼っておきます)と併せてご覧いただくとより理解が進みますので、併せてご覧ください。
前略
2 . 電車線関係の作業方法の改善
( a )吊架蝕の断線防止 電卒線路の吊架線は直径4mmの亜鉛メッキ鋼線の7本撚線で、其れが碍子で支持されて支持物であるビームとの間に直流1500Vがかけられている。従って何かの異常現象が発生せぬかぎり絶対に断線する事はないと言える。若しこの碍子の支持
部分の吊架線が断線するとすれば多くの場合は落雷の異常電流等による碍子のアークオーパーが原因である。
今度の断線事故も丁度碍子の以替作業中過って直流1500Vを短絡して吊架線とピームの間に些細な火花を発生させたのが大きなアークに発展し、その熱によって吊架線が熔解して断線したものと推定される。おそらく金属製の工具が最初の短絡の媒介となったものと思われる。
作業中の過失は極力防止するのが当然であるが、作業者が人間であるかぎり此れを絶釣に皆無にする事は不可能である。しかし其の過失が単なる過失としてすまされる場合、たとえば過失による故障が放置しておいても其の儘拡大せずに終ってしまう様なものならばよいのであるが、其の故障が1度発する、どこまでも拡大して大事故となりしかも人命にも関する穏な場合は、その作業を危険作業として故障が発生する原因を取り去るか、又は故障が拡大する事を絶対に防止する方法を取らねばならない事になるのは常然である。
今度の碍子取替作業の危険性の原因は言うまでもなく直流1500Vの電線にある故これを取り去って作業する。つまり停電作業とすれば非常に安全となる。(しかし梯子上の作業であるから高所から墜落する危険に作業者がさらされている事はさけがたい。)
そこで今まで現場の作業責任者の判断にまかせてあった停電によらねばならぬ作業の種別を規程によって指定する事とし停電作業心得によって其の確実化をはかったのである。
(b )電車線作業中の列車防護
今度の様な電車線の故障時には、列車が故障点に進入して来るのを停止させる手配を取る事が当然であって、この手配が完全に出来ていたら多少電車の運行は乱れていたかもしれぬが、とにかく電車線の断線事故に止めることが出来た筈である。(今度の事故のむずかしさは事故の支障が単なる1つの点でなく或る範囲に拡大された広さをもっていた所にあって、火災を発生した電車は事故発生点を通過しないで其処から約140m程はなれた殆んど事故拡大範囲の末端の渡り線を渡って進入して来たのである。)
従って完全な列車防護を行わねばならぬ事は当然であるが、電車運転区間の様に非常に短時間の列車間合の間隙をぬって危険作業を行う事は非常に困難であるので、上述の様に停電によらねばならぬ作業種別を拡大して事故防止を確立すると共に、更に空間的に列車に支障するか又は支障する危険のある作業は予め運転を閉塞して閉鎖工事として施行する様に閉鎖工事の種別を拡大する事とし閉鎖工事手続を改正した。
( c ) 電車線作業の将来
今度の規定の改正は電車線技術の退歩の現れだと言う見方をする人が多いが、私は其れについて次の様に考えている。従来電車線路の保守者はその作業のために列車の運行に支障を与えることを絶対にさける様にして来た。そして其のためには種々な器具や機械を考案し、叉各人の技術をみがく事に非常な努力をはらって苦心し続けて来たのである。今度の停電又は線路閉鎖工事の拡大は此の多年にわたる研鑽や努力の結晶である作業内容を非常に後退させた観があるのは技術者として残念千万なことである。
併しここでよく考えたい事は終戦以来荒れ果てた電車線の設備を非常に改善し、叉戦争によって失われた技術者の未熟な補充者の技術も非常に向上したとは言え、未だ全部の設備、全部の人達が昔の水準に達したとは言いがたいことは認めねばならない。然も都市付近では共の作業者の数すらが定員をみたす事が出来ないのが現況である。其の結果として電車線作業の安全性に非常にゆとりがなくなっている事は見逃せない事実の様に思われるそこで非常に残念ではあるが、作業方法の安全を期するため、そのゆとりを拡大するために規程を改正したのである。
このゆとりとは例えば安全側と危険側の間にはさまれた一種の緩陣地帯であって、改正規程であるいは其れが広きに失すると考えられる所もあるとは思われるが、今後あらゆる間に技術の向上をはかり、叉質で不足の面では或る程度量の補充をはかつて、この緩障地帯の巾を最も妥当な所まで徐々にせばめるべきだと思う。
私は此処に電車線保守技術者の懸命な努力を注ぎこみ其の将来性に希望をもちたいと思う。そしてその為には国鉄の他の分野の方々の御協力が是非とも必要であると思う。
併せてご覧ください。
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