スキップしてメイン コンテンツに移動

北陸本線、北陸トンネル列車火災事故に関する特別監査について 二回目

 北陸トンネル火災事故の2回目となります。

今回は車両並びにトンネルの列車火災対策と言うことで提言されていますが。

車両の構造なども考慮する必要としていますが、新たに設置される鉄道火災対策技術委員会と連携して、燃えない車両を作ることが重要という点では一致しているように見えます。
トンネルの構造上の問題を含めて、検討と報告がなされています。

 

V今後の列車火災対策
1車両対策


国鉄は、別紙(省略〉のとおり、車両の防火対策を推進してきた。このうち、発火着火防止についてのこれまでの対策は、一応の成果があがっているものと認められるので、今後とも、さらにこれらの施策を推進するとともに、発火、着火の原因となりやすい箇所に対する点検および清掃の徹底等についてなお強力に実施することが必要である。
車両のいわゆる不燃化対策としては、昭和44年5月、民営鉄道に対する行政指導としてし電車の火災事故対策について(通達戸〈鉄運第81号〉が運輸省から通達され、以後、国鉄も極力これに準じて対策を講じている。車両を完全に不燃化することは、おのずから限界があるが、車両火災を防止することの重要性にかんがみ、今回設置された鉄道火災対策技術委員会等を十分活用してこれを強力に推進することが必要である。
この際、車両構造の改善については、乗客の避難誘導に要する時間、初期消火に当たらせる時間、車両の延焼防止および切離し等の条件ならびに煙、燃焼ガスの発生等を考慮し、その重点を明らかにして実施することがきわめて重要である。

2トンネル内における列車火災対策

今回の事故にかんがみ、当面、国鉄は、トンネル内において列車火災が発生した場合、約5キロ以下のトンネルでは、初期消火の段階で脱出できるとして、これ以上のいわゆる長大トンネル20箇所に対して各種の対策を講じつつあるが、今後、前記技術委員会を活用して、長大トンネルおよび立地条件がこれに準ずるものには、列車火災に対する設備上の対策として、特に次の諸点について配慮する必要がある。

(1)通信連絡設備の強化


救援活動を円滑に行なうには、必要な情報を的確に得ることがきわめて重要である。そのため、無椋機の難聴区間の解消に努めるとともに、電車、気動車に対しでも乗務員用無線機のとう載を推進すべきである。また、これは列車防護にも有効に活用できるものと思われる。
なお、沿線電話機の取付けもあわせて検討すべきである。

(2)避難誘導設備

非常の際の乗客の避難誘導を容易にするため、トンネル内照明の一斉点滅スイッチおよびスイッチ位置表示板の設置について推進するとともに、トンネル内照明のあり方について検討することが必要である。
なお、煙による被害を防止するため、排煙方法についての研究ならびに斜坑等の利用方についての検討もあわせて行なうべきである。

(3)消火設備

トンネル内における消火設備については、消火器、消火栓などが考えられるが、それらを設置する場合においては、その取扱方について方針を明確にしたうえで対策を講ずる必要がある。

3列車火災事故に対する即応体制


(1)乗務員の取扱方の明確化

列車運転中における火災事故は、乗客に与える心理的動揺が大きく、その処置が遅れれば死傷者を生ずるおそれがあることなどから、関係乗務員の対応措置は迅速、確実なものでなければならない。今回の事故にかんがみ、国鉄において、長大トンネル等を中心とした乗務員の火災事故に対する取扱方について、次の諸点に関する基準を早急に明確化することを要望する。
ア列車火災発生時における列車停止の時期

イ乗客に対する案内放送とその時期および放送文例

ウ避難誘導の時期とその具体的方法

エ初期消火の限界および消火作業の基準

オ車両の種類に応じた切離しの処理基準

カ上記各作業の手順および分担

(2)乗務員に対するマニュアルの見直し

事故に当面した関係乗務員に的確な判断と適切な処置方を期待するためには、前述の基準を明確化したうえ、現行のマニュアルの見直しを行ない、これに習熟させることが必要である。
マニュアJレの見直しにあたっては、消火作業に関する専門家の意見、避難行動における乗客心理に関する鉄道労働科学研究所の調査、長大トンネルに対する総合点検の結果等を勘案することが望ましい。
また、緊急時における重大な判断の負担を乗務員のみに負わせることを極力避けるため、実際の業務に携わっている職員の意見、体験等を取り入れ、実践的なマニュアルを作成するよう努力すべきである。
なお、広域運用によって局所属の異なる乗務員が同一列車に乗り組むことが多いので、その処置方にそごをきたさないよう基本的事項について統ーをはかる必要がある。

(3)乗務員の分担の明確化と連係

事故発生時には、関係乗務員の処置が明確な分担のもとに有機的な連係をもって行なわれることが重要である。
関係職員の分担については、おもな職務内容が定められてはいるが、乗務中のすべての職員を含め、異常時における処置の決定および指示のあり方については必ずしも明確ではない。これを明確化するとともに、それに基づいて各職員が相互に緊密な連係をとりつつ行動することが必要である

(4)情報処理の円滑化

事故現場においては、目前の事象にとらわれ、現地対策本部への重要な状況報告を欠きやすく、本部内においても、各系統聞の連係、指示・手配事項の確認等の不徹底から情報処理の不円滑をきたすことが多い。また、今回の場合は、現地対策本部が2箇所設置され、この間の情報連絡が通信のふくそうもあって、円滑を欠く面が見受けられた。今後は事故時における情報の統制およびその処理のシステム化について十分な検討を行なう必要がある。
なお、事故発生時には、部外関係、報道関係等から照会や取材が著しくふくそうするので、事故処理に当たる責任者とは別個に広報専任者を置き、積極的に情報を提供する必要がある。


(5)部外関係機関との連絡体制の緊密化

今回の事故においては、県、市町村、警察署、消防署、自衛隊、医師会、婦人会等から絶大な協力を受けることができた。今後とも平素から必要な情報を提供するとともに、協力体制の緊密化に努めることが肝要である。
なお、関係機関との共同訓練についても、できる限り機会を設けて実施することが望ましい。

(6)失火防止


たばこの火の不始末等による失火防止については、列車乗務員の車内巡回を強化するほか、車内での火気取扱い、異常を感知した場合の関係乗務員への通報方等について、平素から乗客の協力方を要請することが必要である。

4指導訓練のあり方

指導訓練は、平常業務を的確に遂行するための知識、技能と事故に遭遇した場合の判断力および行動力を職員自身に身につけさせるものであるから、職員自らが進んで参加することは当然であるが、管理者も職員の参加意欲を盛り上げる職場づくりが重要である。このためには、上部機関の全面的なパックアッフ。がたいせつであり、その際、現場管理者および指導担当者の指導能力の向上にも配慮することが必要である。
乗務員に対する指導訓練は、従来、その内容が運転技術上の基本的事項のほか、規程改正および設備改善に関する作業方式の更改に伴う指導、車両故障および列車脱線事故の復旧訓練等に重点がおかれ、また、その方法も説明を中心とした机上訓練に主体がおかれていた。
今後は、列車火災事故についても十分配産するとともに、よりいっそう実践的な訓練にカを入れることが必要である。その際、今回の事故の経験から特に次の事項について徹底が望まれる。

(1)乗客の避難誘導
異常事態における乗客の誘導方については、乗客に事故状況を知らせ落着きを呼びかけ、状況により安全な車両に誘導すること等が局、現業機関で定められている。しかしながら、今回の事故をみると、この点に関する訓練は不十分であったといわざるを得ない。
今後は、実際に予想されるケースを想定して迅速かっ安全な乗客の避難誘導について、実地訓練の徹底が必要である。

(2)車両の切離し作業

今回の事故における切離し作業は、前述のとおり種々の悪条件下での作業に加え、経験も少なく、訓練不足がうかがわれた。
今後は、車両の切離しについて車種等を考慮した処置方を定め、関係職員に対して十分な訓練をすることが肝要である。

(3)消火器の取扱い

初期消火の重要性にかんがみ、今後、消火器の操作、初期消火の限界等について専門家の指導を含め、平素から訓練の徹底を期すことがたいせつである。

(4)訓練設備等の改善

実践的な訓練のためには、現物の車両等を訓練用に極力確保するほか、訓練盤等の整備およびビデオ等の視聴覚教材の積極的導入をはかるなど、訓練設備等の改善に努めることが必要である。

5食堂車および郵便車の管理

(1)食堂車 

国鉄は、旅客構内営業規則に基づき、列車食堂営業者に対して営業に必要な範囲内で食堂車の使用ならびに管理を行なわせているが、喫煙室の管理については、必ずしも明確でないので、この際、これを明確化する必要がある。
火災予防については、列車食堂営業者が万全の措置をとり、さらに異常時の場合、食堂従業員は列車乗務員の指示により行動することとなっているが、昭和42年11月、食堂車の火災事故発生にかんがみ、国鉄は、列車食堂営業者に対し、火気取扱いの厳正等についていっそうの協力方を要請してきた。
今回の事故の場合も、レンジの火の始末および確認は完全に行なわれていたが、今後とも食堂従業員に日常の火気取扱い等に万全を期せしめるとともに、さらに食堂車に火災事故が発生した場合の列車乗務員への通報方、消火器の取扱方等について徹底する必要がある。

(2)郵便車

郵政省は、その職員の行なう郵便車の防火管理について、防火責任者の明確化、消防司11糠の実施、車掌弁の取扱い等を通達し、その徹底をはかつている。
なお、今回の事故においては、郵政省側の協力により、郵便車内を通路として乗客の避難誘導に努めることができた。
国鉄は、異常事態における連絡通報の方法、車単弁の取扱方等について、郵政省側と緊密な連絡をとっておくことが必要である。

Vむすび 

本事故の原因および今後の対策についての所見は、以上述べたとおりであるが、国鉄の保安管理体制のあり方に関し、特に次の点を強調したい。
1 今回の事故を省みると、長大トンネルの中という悪条件下とはいえ、多数の死傷者を生ずる重大事故となったことはまことに遺憾である。列車火災対策については、従来から出火防止対策、車両の難燃化等をはかるとともに、これらに関する研究、開発も進められてきた。しかしながら、国鉄における長大トンネルはその数も多く、列車火災などの事故も予想されるところであったが、非常事態に対処するため、車両、トンネル内外の設備、避難救出等について、総合的に取り上げて明確な対策を打ち出すまでに至っていなかった。本委員会は、このことが重大事故に至らしめた要因となったことについて、国鉄に深く反省を求めるものである。
国鉄は、保安対策の広範な分野において従来から努力してきたことは認められるが、列車火災対策のような重要課題に関しては、すみやかに部内外の研究の総合化をはかり、これを施策に結実させるような努力が必要である。
今回の事故を契機として、部外学識経験者を中心とする鉄道火災対策技術委員会を設置したが、その成果が列車火災、特に長大トンネル内の事故に関する抜本的対策に取り入れられることを強く期待するものである。
なお、その際、旅客の危険防止という観点から、旅客列車に重点をおくのは当然のことと思われるが、さらに視野をひろげて危険品の輸送についての対策も重視されるよう要望する。

2 国鉄は、昭和37年の三河島駅列車衝突事故以来、運転事故防止対策委員会において各種事故の分析と対策の即決、現地の意見聴取を行なうなどにより、かなりの効果をあげてきた。しかしながら、事故防止対策のなかには、下部機関への指導面において、現場における実行可能性の検討、訓練および実施の結果のフィードバックに基づく再修正という最も重要な点が十分でなかったものが見受けられる。このことは、特に国鉄のような巨大な経営組織に内在する弱点として常に反省されなければならない。
事故防止のための管理体制については、真に実質的な効果をあげるよう常1にざん新なくふうが望まれるところであり、経営者と現場職員との意思疎通が十分に保たれていることが肝要である。たとえば現場の第一娘で働く職員の体験から生ずる意見等はきわめて貴重なものであるから、積極的に取り上げて検討し、そのなかから有効な施策を生み出すような基本的態度も必要であろう。

3 安全の確保は、輸送の生命であり、労使が一体となって取り組むべき問題である。本委員会は、今回、特に国鉄の労働組合の代表者から、保安対策についての見解を聴取したが、いずれの労働組合も、安全の確保に対し十分に熱意のあることが感じられた。ただその実施面、たとえば職員の指導訓練、運転取扱いに関する規程などについて、労使聞に意見の相違があることも事実である。
安全問題について労使間で意見がわかれている事態は憂慮されるところであるが、上述のような問題も、安全に対する労使双方の熱意からみて克服できないことがらではないと考える。今後とも、労使による事故防止委員会等の場を活用するなど、相互の意思疎通を十分にはかり、安全施策に関する建設的成果を得るよう労使とも努力することを期待してやまない。

4 施設、車両等の修繕費は、保安の維持をはかるためのひっすの経費であり、昭和37年度から昭和46年度までの10年聞に年平均10%増加しており、その総額は約1兆400億円に達している。さらに保安設備の改良・強化のための工事経費も、同期間内に工事経費総額の17%に当たる約5300億円が投入されている。
国鉄は、貴重な人命、財産の輸送を国民から負託されており、その安全輸送の使命を全うするためには、今後とも、保安のための経費は常に確保しなければならない。一方、設備の近代化を推進するとともに積極的に技術革新の成果を導入し、保安度の向上をはかることも必要である。
また、現在までに実施した各種の近代化、合理化施策と保安度との関係については、つとに重大な関心をもって見守ってきたところであるが、これらの施策の実施にあたっては、保安度の維持向上について必要な措置が講じられてきているものと認められる。今後とも、近代化、合理化実施後の新たな条件のもとにおける実態を具体的かっ綿密に検討し、いっそう保安度の向上をはかるよう努力すべきである。
本委員会は、今回の事故により犠牲となられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、国鉄はこの教訓を生かし、安全最優先の確固たる大方針のもとに、一致協力して輸送の安全に全力を傾注することを切望するものである。


別紙

(写〉

鉄 保 第 81号

昭和47年11月8日

日本国有鉄道監査委員会
    委員長 金子佐一郎殿

運輸大臣 佐々木 秀世 

北陸本線、北陸トンネル列車火災事故に関する特別監査について

このたび、北陸本続、北陸トンネル内において、多数の死傷者を出す列車火災を惹起した。
国鉄においては、本年3月総武本線船橋駅における列車衝突、6月東北本線日暮里駅における列車衝突と2回にわたる重大事故の発生をみてきたところであるが、このたび再びこのような大惨事が発生したことはまことに遺憾である。
よって、貴委員会は、すみやかに本事故の原因及び事故発生後の措置をはじめ、国鉄の保安管理体制のあり方について徹底的に監査し、その結果を速やかに報告されたい。

 第1回目はこちらをクリック

参考:その後の難燃化対策などは下記の通り

 交通技術昭和49年10月増刊号 列車火災対策の実施状況から抜粋

 列車火災対策の実施状況
北陸トンネル列車火災事故後、火災発生防止対策として定めた各種対策を次のように実施した。’

  1. 長大トンネルを対象とした無線の難聴対策、沿線電話機および照明設備の改良
  2. 旅客の避難・誘導対策としての車掌室の放送設備携帯メガホンおよびトンネル内歩行路の整備
  3. 車両の難燃化対策として、連結間ホロの難燃化、便洗面所の天井内張等のアルミ化粧板および抵抗器の容量増加

等の改造工事を推進中である。
また、鉄道火災対策技術委員会は、長大トンネル内で列車火災が発生した場合、人命の安全のためにとるべき処置ならびに各種の物的対策の諸問題を解明するために世界にも例のない走行状態の列車火災試験を行ない、貴重なデーターをえた。委員会は8回開催し、車両および地上設備関係の分科会を開催して、火災対策の成果と今後の課題をとりまとめ、、1974年2月に中間報告を提出した。

 

 続く

********************************************************
取材・記事の執筆等、お問い合わせはお気軽に
blackcat.kat@gmail.comにメール またはメッセージ、
コメントにて お待ちしております。
国鉄があった時代 JNR-era

********************************************************

 

コメント

このブログの人気の投稿

北陸本線、北陸トンネル列車火災事故に関する特別監査について 一回目

北陸トンネル事故 北陸トンネル内で車両火災が発生し、食堂車の車内から発火、この時点ではその原因が特定されて居らず、石炭レンジの火の不始末説や、煙草の消火不完全等が原因ではないかと言われていました。 この事故では、トンネルに入って間なしであったこと(当時の管理局の規程でもトンネル内は極力避けて停止となっていたが、北陸トンネルを走行し続けた場合6分程度かかるため、この間に更に火災が燃え広がる恐れがあるとして、乗務員が規程に従い停車した訳で、監査報告書でもこの措置には誤りはないとしています。 しかし、その後停電発生更には、トンネル内の照明が運転の支障になるとして消されていたことも避難誘導を行うのに不利に働いたと言われています。 監査報告書では、国鉄にさらなる安全投資の実施なら浴びに設備の近代化を図るとともに、労使の難しい関係はあるものの、「労使による事故防止委員会等の場を活用するなど、相互の意思疎通を十分にはかり、安全施策に関する建設的成果を得るよう労使とも努力することを期待してやまない。」として、労使双方の安全輸送に対する意識を高めることを期待しています。 なお、報告書自体は非常に長いので2回に分けてアップさせていただきます。 5特別監査報告 北陸本線北陸トンネル列車火災事故 (写〉 監委事第73号 昭和48年1月16日 運輸大臣 新谷寅三郎 殿 日本国有鉄道監査委員会委員長 金子佐一郎 北陸本線北陸トンネル列車火災事故に関する 特別監査報告書について 昭和47年11月8日付鉄保第81号により御命令がありました北陸本線北陸トンネル列車火災事故に関する特別監査については、その監査結果を別冊のとおり取りまとめましたので御報告します。 別冊 北陸本線北陸トンネル列車火災事故に関する特別監査報告書 昭和47年11月6日、北陸本線敦賀・今庄間北陸トンネル内において多数の死傷者を生ずる列車火災事故が発生しました。これに関して、同月8S,運輸大臣から、事故の原因および事故発生後の措置をはじめ、国鉄の保安管理体制のあり方について特別監査を行ない、その結果を報告するよう御命令がありました。 監査委員会は、即日、監査を開始し、国鉄本社役職員ならびに金沢および新潟鉄道管理局の関係職員から説明および意見を聴取するとともに、現地調査を3固にわたって行ない、国鉄の実情を詳細に検討いたしました。

東海道本線鶴見・横浜間における運転事故 報告書 全文(後編)

東海道本線鶴見事故の事故報告書後編となります。 前編は こちら をクリックしてください 鶴見事故は起こるべくして起こったと言うよりも予測不可能な事故であったと言えるわけですが、競合脱線という言葉がこの時初めて提起されたわけですが。 結局、最終的には複合的な要素があったとは言え、どれが確実な原因と言うことは特定できず、最初の脱線を引き起こしたワラ1(走行試験を省略)していたことに対する非難はあったものの、最終的にワラ1そのものに問題があるとは言えず、車輪踏面の改善などが行われ、昭和59(1984)年の貨物輸送のシステムチェンジが行われるまでは、二軸貨車の中核として活躍することとなりました。 ワラ1形貨車 画像 Wikipedia Ⅲ 事故発生の背後的問題 1 類似事故の究明不足 先に述べたように、 今回の事故の原因はいまだ最終的には究明されていないが、 過去においても類似事故が相当数見受けられる。 国鉄の脱線事故は、昭和27年以降は年々減少してきたが、 なお最近5箇年間の列車脱線事故のうち、その原因が線路と車両とに関係があると思われるものが69件あり、このうち、主体原因が不明確で線路関係と車両関係のそれぞれの条件が競合して悪作用した結果であるということでその原因を処理したものは9件を数えている。 このように、 主体原因が不明確のまま競合事故として処理されたものがいまだあることは、事故の原因の究明が部分的なものにとどまり、総合的あるいは動的は握に欠けるところがあつたことによるものといわざるを得ず、このようなことが今回の事故原因のは握を困難にしているものと思われる。 なお、事故の原因を究明し、 これが対策を発見するためには、 多数の事故を統計的手法により分析整理することが効果的であると思われるので、 今後実効的な解析の推進に努力する必要がある。 2 線路と車両の総合的管理の不足 国鉄では輸送の安全を確保するため、 運転、 施設、 電気、 車両等それぞれの分野において、 専門的に深い研究を行なっており、 高度の技術水準にあるが、これらを総合した研究特に線路と車両との動的関係においての総合的究明には不十分なものが見受けられる。 線路においては、部分的には車両の動的影響の測定も行ない、 また最近、高速度軌道試験車により車両運転状態における軌道の変位測定が可能とな

三河島 駅列車衝突事故 特別監査報告書 全文

資料として、三河島事故に対する特別監査報告書の内容全文をここにアップします。 国鉄監査報告書昭和36年版 p277~P288から引用しています。今回の三河島事故では、最初の衝突後、十分列車防護をする時間が有ったにも関わらず、当事者(貨物列車乗務員、及び下り電車乗務員)が適切な防護措置を取らなかったこと、(本来であれば、支障した時点で前後の列車に対し、発煙筒・信号短絡等の措置を取ることが義務づけられている。)さらに、乗客がドアコックを開放して線路に降り立ったこと等の複合的な要因が重なり、支障した下り電車が対向の電車と接触大破して、上り電車乗務員が死亡乗客の多くも犠牲になった事故で、運転士・機関士の列車防護措置に対する怠慢が指摘されたほか、組織として支社が十分機能せずに管理局にしわ寄せが来ていること。更に管理局も現場への管理が形式的文書的な指導になりがちで、現場が十分に実務指導等を行える状況になっていないことなども指摘されており、東京鉄道管理局の三分割に繋がる、組織の改編などにも言及されています。   常磐線三河島 駅列車衝突事故特別監査報告書提出について (写)      監委事第 20 号    昭和 37 年 6 月 14 日 運 輸 大 臣   斎 藤 昇 殿 日本国有鉄道監査委員会委員長 石 田 礼 助  常磐線三河島駅列車衝突事故特別 監査報告書提 出 に つ い て (報告) 鉄保第123号の御指示に基づい て、常磐線三河島駅列車衝突事故に関し、調査検討した結果を別冊のと おりとりまとめましたので御報告いたします。 常磐線三河島駅列車衝突事故特別監査報告書 昭和37年5 月4日付で、常磐線三河島駅列車衝突事故 に関し、運輸大臣より事故の原因を究明するとともに、特に国鉄の管理体制のあり方について、 特別監査を行なうよう御指示がありましたので、 監査委員会において、昭和37年5月7日以降17 回にわたり委員会を開催し、審議いたしました。   事故の状況は、後に述べるとおりでありますが、本委員会は直接の原因のみならず、事故防止の観点から、広く間接的な諸原因について究明する事が重要であると考え、国鉄補本社役員、局長、関東支社長、東京鉄道管理局長及び現場長等について、状況、意見を聴取するとともに、本件に関し、国鉄の実情を詳細に調査検討いたしました。   さらに、