以下は、国鉄部内紙、交通技術の増刊として出版された記事から、63形電車改造工事の概要の部分を抜粋したものです。
なお、末尾に63形改造の72形・73形の工事の話も追記しています。
63形電車の緊急改造工事について
1.9電車の緊急改良エ事
26年4月24日桜木町駅構内にて発生した電車の火災事故は、国鉄の電車史上に於いてはじめての大事故であった。国鉄ではこの事故に鑑みて電車が故障を獲生しないよう、また万一事故か発生した場合その防災処置をより完全なものとして、電車運転の安全性を増強し、再びこの種の事故をくり返えさないよう緊急改造工事を行った。
- パンタグラフの二重絶縁従来から二重絶縁としであったPS2形を除いてPS13、PS11形パンタグラフの取付を亜麻仁油(アマニ油)にて処理した絶縁木材、るるいはフェノールレジン含浸の強化積層木材にて二重絶縁を行い、横械的衝撃によるガイシの破損その他による絶縁破壊などによる事故を防止することにつとめた。ここにはじめて使用した強化蹟唐木材は乾燥したカパの単板にフェノールレジシを充分合浸させ、これを積層して高周波加熱すると共に座縮硬化させたもので、引張強度30kg/m㎡以上を有し、しかも10kV/mmの絶縁耐力を有するきわめて優秀な電機絶縁材料である。
- 貫通式に改造 電車の乗務員室の妻を除いてすべての連結寄妻の開戸を取外しホロ、サン板を取付けて客車と同じように貫通式とし、万一の場合の避難に便ならしめた。今回取付けたホロは新設計の片ホロ式のもの
で、ホロは下り向妻にのみ取付け.上り向妻には単にホ口座を取付け互いに連結する構造で資材の節約、連結箇所を少なくする等の長所をもっている。 - プザー回路を24Vに改造、警報装置新設 従来の100Vのプザー回路では停電の際その用をなさないのでこれを24V蓄電池式に改造した。これと同時に客室に非常プザー、非常プザースイッチを設け、非常時態の発生をすみやかに乗客より乗務員に通報し適切な処置がとれるようになった。
- 戸ジメ装置三方コック増設 従来床下にあった戸ジメ装置周三方元コックの外に床下に更に1箇、客室内に1箇の三方元コック.を増設し、非常の場合のドアの開閉を迅速確実に行えるよう改造した。なお停電の際のドアの開閉については、さきに述べた24V蓄電池を電源としてコンバーターを運転士し、100V1kWの電力を発生しこれを電源として平常と同ーの操作によってドアを一斉に聞くことが出来るよう計画している。
- 天井に防火塗料塗装 万一火災が発生した場合その延焼を防ぐため電事の天井に防火塗料を塗袋した。
その後神戸駅構内にて発生した火災事故においてはこの防火塗料塗畿がある程度の効果のあったことが実証せられた。
以上の改造工事は国鉄の全電車約2550両に実施したもので、準備期聞が短かくまたいろいろ困難があったにも拘わらず、事故愛生以来IO月末までの僅々6箇月間に工事を完成し国電の両目を一新した。
1.10モハ72、モハ73形電動車
電車緊急改匙工事に引続いて問題となったモハ63形電動車の更新修繕を佼施し、これに特別改造工事を併施しモハ72、モハ73としその性能の改善をはかった。すなわち天井を防火構造とするため厚さ1.2mmの高級仕上鋼板にて張り、これと同時に天井燈は湘南形を2列に配置したので室内は大いに明るくなった。窓は従来の3段窓の特長を充分生かし、これを改善して中央ガラス戸も下部ガラス戸と供に上段に上げ得る構造とし、窓の有効開きを一般の電車と同程度に大きくすることが出来た。また必要以上の運転台を撤去して妻を貫通式とし運用に便にした。
制御装置には従来のCS5、CS9の外に新たにCB8形減流器と減流抵抗器とを増設し、弱界磁起動並びに誠流シャ断を行ってその性能を改善すると共に、その他の主要機器もモハ80、モハ70等と同一部品に取替え配線もこれらを統一して保守の便をはかった。
この改造工事によって運転台を撤去したものは形式をモハ72とし、運転台を残してあるものはモハ73として区別している。26年度にはモハ72形15O雨、モハ73形20悶の改造を実施したが、この工事は引き続き実施し28年度にはすべて完了する予定である。またこれと同一構造のサモハ63、サハ78、クハ79についても同様の工事を27年度より実施している

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