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日本国有鉄道の発足 鉄道年鑑 抜粋


  日本国有鉄道の発足 P54-66

  1. 公共企業体の意義

    公共企業体 Public Corporation とは、国家の経営する企業が公共の福祉を目的とし、しかも能率的に運営されるように考え出された経営形態でありこれによって(イ)既存の国営事業を能率化合理化する。(ロ)或は公共の利益に関連の深い企業を社会化すると共に資本主義的な高能率を保持させてゆくところにその新しい意義がある。
    諸外図でも米国のT・V・Aや英国の国有鉄道のように最近その例が多くなった。その形態は国により事業により各々であるが、その組織は政府の任命する少数の委員から成る委員舎が最高機関となり、その下に執行機関を設けて自由に企業的に事莱を極管させ、委員会は公益を代表すると同時に、能率的な業務の運営を指導するという形式が多い。その資本金は政府の全額出資が多いが、民間との共同出資のものもある。

  2.  国有鉄道の改革の必要
    24年6月一日国鉄が公共企業体となったことは、明治39年の鉄道国有以来の大改革であるが、このような改革が必要となったのは次の理由による。
    (イ)行政と現業との分離 国鉄は運輸大臣の下に経営されで来たが、運輸大臣は他面陸運海運監督機関であって、国鉄と民間交通業者とは競争関係に立つにもかかわらず、一方が監督権をもつことは公平ではないし、叉運輸大臣が国鉄の事務に忙殺されて経営とは業務の性質が異るので行政機関に伴う色々の行政上の制約を受けるのは適当でないから分離すべきである。
    (ロ〉財政上の自主権 国鉄の経営は状況に応じて機動的に運営されねばならず、その収支は業務量の増減によって絶えず変動するのであって、一般官庁の静的な予算制度で拘束することは企業の能率的な運営を妨げるから、官庁的な会計制度を改め、独立採算を推進する必要がある。
    ハ)人事管理上の自主化 国鉄職員が公益に奉仕しなければならない点において一般官臨職員と少しも変りはないが、その業務内容において著しく異り、むしろ民間交通事業に近く、従って一様に国家公務員法の規制を受けるのは適当でなく、叉労働関係についても公務員と異りある程度団体交渉権を認める必要がある。
    (ニ)政治からの独立 国鉄が企業として能率的合理的に運営されるためには政治的勢力によって運営がゆがめられないようにしなければならないし叉内閣の変る毎に経営責任者、か変るのでは企業の恒久的な経営方針が成り立たない。
     以上のようなわけで、戦後国鉄経営の改革が研究されて来たのであるが、23年7月22日のマックァーサー元帥書簡で、鉄道事業を管理し、運営するため適当な方法により、公共企業体が組織せらるぺぎである旨が明らかにせられた。この書簡はその頃の労働情勢にかんがみ、公務員の争議行為は禁止するけれども、鉄道及ぴ事資事業の
    職員の務倒関係が一般公務員と同様に制約されることは適当ではないから、国鉄及び専売事業を官庁経営から公共企業体に移し、その労働関係の制約を緩和するという趣旨であるが、これを契機として国鉄の公共企業曲目への移行が準備せられ、11月3O 日日本国有鉄道法が第3回臨時国舎を通過し、12月11日公共企業体労働関係法が第4回通常国会を通過し、24年4月1日から移行することになった。しかし準備その他の事情で24年1月23日第5回特別国会でその期日が6月1白に延期せられた。

  3.  目的と法的性格
    日本国有鉄道を訟立する目的については、日本国有鉄道法第一条に「国が国有鉄道事業特別会計をもって経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営によりこれを発展せしめ、もって公共の福祉を増進することを目的」とする旨が明らかにされている。
     その法的な性格は、公法上の法人であり、法令の適用については特に定める場合を除き国とみなされ、叉国鉄総裁は法令上の主務大臣とみなされることに定められている。

  4. 組織 
    公共性を確保するために最高機関として、両議院の同意を得て内閣が任命する5人の委員と総裁から成る監理委員会が置かれている。監理委員長は直接経営に当たるのではなく、総裁以下の行う経営を国民を代表して指導-統制する立場にある。
    法人としての意思を決定し又法人を代表するために総裁、副溜裁、理事の役員が置かれている。総裁は監理委員会が推せんした者について内閣が任命する。このように監理委員及び総裁の任命を通じて、国鉄経営の公共性を保っと共に、総裁以下の行う経営については官庁的な制約を及ぼすことなく、能率的に経営し得るように、その業務組織の決定は総裁に一任されている。
    責任の系統から見ると、総裁は監理委員会に、監理委員会は国鉄の最高機関として運輸大臣に、運輸大臣は国鉄の監督機関として国鉄に対して責任を負うわけである。

  5. 職員
    役員及び職員は、国家公務員ではないが、しかし一般民間会社員と異り公務員に準ずぺきものであるから、「法令により公務に従事する者とみなす」と規定されている。従ってその勤務その他共済組合、恩給等の関係についても公務員に準ずる取扱を受ける面が多い。その給与も「生計費並びに国家公務員及び民間事業の従事員における給与その他の条件を考慮して定めなければならない」とされている。

  6. 労働関係
    職員の労働関係については一般の労働組合法等によらず公共企業体労働関係法が適用せられる。この法律は「公共企業体の職員の労働条件に閲する苦情又は紛争の友好的且つ平和的調整を図るように団体交渉の慣行と手続きを確立する」ことによって、「公共企業体の正常な運営を最大限に確保し、もって公共の幅祉を増進し、擁護することを目的」としているのでらる。このことは国鉄が公共企業体に移る直接の契機となったマ一元帥書簡の趣旨を反映したものであって、国鉄事業の公共性にかんがみ、 4公務員と民間人の中間にあ
    る国鉄職員に対し、一般労働組合とは異る制約を設けて、その労働関係を調整しているのでるる。
    これによって、組合はオープシ・ショップ制となり、団体交渉の範囲も賃金労働時間、労働条件等に限定せられ業務の運営と管理に関する事項は交渉の対象とすることができないことに定められ、労働争議についても、同盟罷業や怠業は禁止せられ、その代り苦情処理共同調整会議、調停委員会及び仲裁委員会が設けられて問題を平和的に解決することになり、仲裁委員会の規定に対しては当事者は双方共最終的決定としてこれに従わなければならないことに定められている。

  7. 資本金
    資本金は政府の全額出資で、その額は昭和24年5月31日における国鉄特別会計の資産の償額から負債の金額を控除した額と定められ、実際には従来の固定資本である。4,916,822,774円32銭が政府の出資額となった。国鉄の引継いだ財産は国鉄特別会計の資産並びに借入金以外の負債であってその資産は台帳価格で約57O億となり、新品収得債絡で評価すれば約1兆円に上ると見られている。

  8. 会計
    会計制度は大体従来の制度を受けついで、予算は毎事業年度運轍大臣を経て大蔵大臣に提出し、大蔵大臣はこの預算を検討して必要な調整を行い、閣議の決定を変て、内閣から国会に提出する。叉政府の全額出資でおるから会計検査院の検査を受けなければならない。11月28日第6回臨時国会において、企業的な経営に必要な改正を行う日本国有鉄遣法の一部改正が議決せられたが、これによって、(一)能率的な運営を図るために財政法会計法等の会計を規律する法令の摘要を排除し(2)予算についは予算流用、予備費の使用等に関する現行法の諸制約をできるだけ緩和し、(3)利払い低金の処分については繰越損失の補てんに充当し得ることとし、(4〉従来現金はすべて国庫に預け入れることになっていたものを特殊の事情ある場合には郵便局叉は市中銀行に預け入れる遣を開き、
    (5)資金の調達については従来全部政府からの借入金として調達することになっている外に、鉄道債権の発行を認め、民間資金の調達の道を開く等種々の改正がなされることになった。これで充分というわけではないが、独立採算推進のための一進歩といえよう。

  9. 監督
    国鉄に対する監督は運輸大臣が行い運輸大臣は公共の幅祉のために国鉄に対し監督上必要な命令をなすことができるが、新しく公共企業体になった趣旨から見て、国鉄の自主性を尊重し、護職大臣の許可事項は特に限定せられている。
    予算決算等財務については運輸大臣と共に大蔵大臣の監督を受ける。
    以上のような制度の下に国鉄は公共企業体として発足したものであるが、移行の事務も順調に進み、7月の人員縮減の際若干の混乱はあったが、その後職員の間に新しい企業体の意義が理解せられると共に、業務能率も次第に向上し、経営合理化の方策も逐次実行に移されるに至った。 

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