以下の記事は、交通技術1951年8月号の記事から、抜粋したもので、同年4月に発生した桜木町事故に関して、車両側で実施した改造工事についての関連資料となります
なお、原文は旧字体であったので、全て新字体に変更したほか一部、一般的ではない威追廻についてもひらがな等の表記に改めており、読みやすさを優先しています。
ここで貫通幌に関しては新設計したと書かれていますが、文献などでは客車用のものをリュ流用したと言う記述もある事から、その辺は詳細をご存じの方おられましたら、ご教示いただければ幸いです。
以下は、個人の推測ですが、旧形客車の鋼体化などで客車用の幌は予備品が多くあったので、それをそのまま流用したというのがやはり、一番すっきりすると思われるのですが、公的な記録故にこのような表現にしたのでは内かと思われます。
【あくまでも推定と言いますか、私見であることをお断りしておきます】
桜木町事故の国会審問blogも参考までにご参照ください
https://plaza.rakuten.co.jp/blackcatkat/
本記事の引用は歓迎します。その際は、出典:[ブログ名] [日付] と明記ください
昌谷 駿介
桜木町のあの未曽有の不幸な事故に鑑みで、既に公表された様な色々な対策がたてられたが、車両の改造工事もようやく軌道に乗り、全国関係工場で10月末完成を目標に、目下全力を尽くしつつあるので、その概要とこれに闘連のある計画について述べる。
1.パンタグラフの二重絶縁工事
電車のパンタの大部分を占めるPS13型と11型は絶縁碍子を介して車体に直接取付られているので、何等かの原因で此の絶縁が破壞されると、地絡して火災の原因となる。しがしこの構造も改良に改良が加えられ、容易なことではこわれないのであるが、桜木町の場合の様にパンタが倒されると云う様な事になると危険であるので此の碍子を更に絶縁物を通して車体に取付ける様にしたのである。PS13型の場合は従来のパンタ台受と屋根の踏板受を取外して新たな受を取付け、これに厚55mm、幅170mm長さ1,800mm のアマニ油で処理した硬木の木胎を渡し、この木胎にバンタの碍子を取付ける様にした。
PS11型の場合は高さをあまり高くしたくないので従来の鋼製の台受を強化木製のものと取替えた。此の強化木はカバの木の1.5mm厚さの良質な板に、フェノールレジンを含浸させ、これを積み重ねて高周波加熱をしながら壓縮硬化させた物である。絶縁耐力はAC10,000Vで1分以上となつておりなお熱湯冷水交互に相当時間ひたした後にAC7,000Vで耐圧試験を行う。
2. 貫通式に改造
現在電車の妻にある扉は、もしも不意にあいて乗客が落ちる様な事がない様に、普通内側に開く様になつている為、非常の場合、殊に混んでいる時などには開ける事が困難で、ここから避難する事はむづかしい。そこで此の扉を取外して桟板と幌及びツカミ棒を取付け、普通の場合でも車両間を行き来出来る様にしたのである。此の工事は既に貫通式になつている湘南線、横須賀線型の車或いは荷物電車などを除いたものが全て対象になるのであるが、編成の途中に組込れたモ、クハ、サモハなど運転台のある車はこれを撒去せねばならぬものが大部分なので取敢えず除外しその代り編成を組替えて少くも2両づつは貫通出来る様に考えている。従って緊急工事としては約1,500両に実施し又運転台撒去は約400両実施せねばならぬがこれは今明年度中に完了する様計画している。なお幌は今回新たに片幌式のものを設計しこれを下り向の妻に取付け、上り向の妻には幌座だけを取付ける。
3.戸ジメ装置三方コックの増設
戸ジメ装置は普通電気的に操作しているので、一且電源がきれた場合は車室内の各戸袋附近腰掛下にあるコッ
クか床下のロックを開けて戸ジメ装置に作用している圧縮空気を排除しないと戸が開けられない。非常の場合之これでは不充分と考えられるので、床下に一個、車室内に一個増設しこれを操作すればその車全部の扉が手で開けられる様にした。車室内のものは成るべく車の中央寄出入口の戸当り吹寄に、赤枠付きのガラスフタの中に装置される。床面からの高さは約1,500mmで、向きは上り方向に向つて左側である。
非常の場合の扉の開閉については従来から色々な考案もされているが、一長一短があり、殊に走行中に扉を開ける事は非常に危険であるので、車室内のコックも、必ず後述する警報装置で乗務員に連絡し、停車してから操作する必要がある。
4. 警報裝置の新設とブザ回路を24Vに改造
今迄の電車は運転士と車掌の間で連絡をとる為のブザは取付てあつたが、非常の場合に乗客から乗務員に連絡を取る方法がなかつたので、湘南型以降の新車にはこれを装置した。今回は各車両に非常用のプザスイッチ、ブザ及び車側表示燈を取付、なお1,500V の電源が切れた場合でもこれ等の回路は24Vの蓄電池電源によつて操作出来る様にしたのである。従って非常の場合乗客がこの非常ブザスイッチを引くと、運転室車掌宝のプザが鳴り乗務員に応急の手配をとらせると同時に、その車のプザも鳴つて他の乗客にも注意を與え又車側燈がついて何の車に事故があつたか容易にわかる様になつている。この装置は運転室の無い車では前位妻の向つて左側の幕板に取付ける。車側の表示燈の方は車の両側前位外吹寄に取付け高さは外幕板帶から70mm位下つた所に指定した。なおこれは運転室のある車ではこれに向つて左側の仕切が窓の幕板は編成全部が改造を終らぬと使用出来ぬので、差当り100V の電源を使つて乗務員室に丈は連絡出来る様に考えている。
5. 天井に防火塗料塗装
桜木町の事故で災害を大きくした大きな原因の一つは火の回りが非常に早かつた事である。防火塗料の効果については種み意見もあるが、多少でも火の回りを遅らせる事に役立つと考えられたので、取敢えず一番効果的と思われる電動車の天井に塗ろ事とし、これは6月末日迄に完了した。
なお桜木町事故の際焼失した事が63型であり、屋根が木製であつた爲燃焼が早かつたと云う發表があつた爲、63型が特に燃えやすい様な誤解もうけたのであるが、現在の電車、客車はごく少數鋼製屋根のものがある丈で、大部分は木板の上に屋根布を張つたものであり、車室内は殆んど木ばかりで出来でいるので、これの防火は中々困難である。今迄の經驗からすると車の上部から發火した場合に火災となつた例が多いので取あえず電車の天井は順次鋼製とする事としたのであるが、將来は全鋼製とする等不燃性の材料を使用する様考處すべきだと思う。併しながら現在の一万数千両に及ぶ車両を急にどうすると云う譯にも行かないので防火塗料についても充分の研究を行いこれを取入れて行く必要がある。今回の塗料撰定に當つては各社から提出の多くの試料について技術研究所、大井工場等で色々調査して戴いたのでその概要を説明する。車両用塗料としては唯防火性が好いと云う丈では勿論駄目でその耐久性皮膜の?さ、耐水性、美觀等が問題になるし、現?では?に従来の塗料が塗つてある上に塗り重ねる場合も多いのでその適否も考える必要がありこれ等の観點から試験が行われた。天井板の上塗用として
14種の塗料を試験した結果何とか使用に差支えないと思われるもの国産で1種、外国製品1種、多少耐水性が劣るが天井板裏面になら使用しうると思われる物国産で1種と云った状態であつた。これ等は何れも發泡性のもので高熱にあうとガスを發生しでふくれ上り、内部の熱の傳導を防く性能のものである。防火性としては試料を塗裝した板を約700℃のガス状にあて發暗する迄の時間が何れも30秒以上、好いものは300秒以上であり、これを水に24時ひたした後乾燥して試験しても15秒から180秒と云つた程度であった。なお宝内の木地強用のもの11種についても同様な試験を行つたがこれは何れも不合格であつた。
又天井を鍋板にした場合の塗料についても研究を進めているが、此の場合は防火性と云うより難燃性の大きいものを撰ぶと云う見地から檢討しており、適當と思われるもの?に2~3種ある。防火塗料の現状は大体以上の様であるから更に研究を進めると同時に優秀なものは順次車両の新製、修繕の場合にとり入れて行く様計画している
材料も比較的順調に入手しつつあるので10月末迄にはほぼ完了しうる見通しであるが、最も両數の多い東京附近では大体8月中旬迄に京浜東北線関係を、9月中旬迄に山手線を、10月中旬に中央、總武、常磐線関係を10月末迄に湘南、横須賀、南武線、其の他を完了する計画で着々進捗中である。
なお一般からの要望の強かつた63型電事の窓の改造は相当大工事となり、長期間車を休ませなくてはならぬ為これを短期間に実施すると唯でさえ困難しているラッシュ時の運用車両數を相当減少せねばならぬ情況なので、止むを得ず長期計画に繰り入れた。併し極力更新修繕を繰り上げ又甲修でも併施して今年度中に300両27年度中に全部完了する様計画している。此の外長期計画には断流裝置の強行、天井板の鋼製化、鋼板屋根の絶縁等を計画しておりトロリー線斷線の原因となつていた炭素摺板も、昨年これを金属摺板に切替える計画をたて、最近ようやくその入手の見通しも明かになつたので8月末迄には全部完了す。
電車の故障も終戰直後の21~22年を頂點として漸減、昨25年度は走行100万当り6.5件と、最大の年の約4分の1に減少したが、未だ戰前の成績良好な時の約7倍の發生を見ており、最近も久里浜駅の電車火災事故を始めまだまだその跡を斷たぬ実態にある。絶対に事故を起さぬと云う事は車両の保守を擔當する者として当然の念願であるが、現実はこれに程遠い状態にあるので、不幸故障を起しても災害を少しでも小さくしうる様な方法は極力取り入れて、少くも人命に拘わる様な事故を再び繰返えさぬ様関係者一同全力を尽くしている。
(車輛局客貨車檢修課長)
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