スキップしてメイン コンテンツに移動

昭和25年の交通技術から抜粋 湘南電車 新製される湘南電車

 以下は、交通技術の記事の中から、80系電車設計当時の技術者の記事を書き出したものです。
イラスト、その他はAIによるリライトを行っていることをお断りしておきます。

歴史的資料としてご理解ください。

  新製される湘南電車


林 正造


1. はしがき

東京附近の交通難を緩和し旅客輸送のサービスを改善する目的をもつて、東京・沼津間の旅客列車を電車化して、いわゆる湘南電車を運するという計画はさきに本誌にも発表されているが、目下新形式の電市の設計が工作局においと進められ、近く新製がはじめられる段階に至っている。しかし本年度は経済9原則の適用、国鉄経営の合理化等の影響をうけに、電車新製の予算が大幅に削減をうけ、僅か1編成 10開の新製がみとめられたにけぎないのであるが、予算の余裕のつき次第電車の両数も幾分滑加されるので本年度においては現在の湘南列車の一部を電車におきかえ、26年度頭初より全面的に電車化せられることとなるであろう。

2.湘南電車の性能

湘南電車は基本編成を10両とし、朝タの混維時には5両の付属編成を増結し15 輔編成で運転される。一般に電車の長距離運転は連結開取を2~3両、多くて数両程度の小単位として高速運転を行つてサービスをはかつていて、東京・沼津間 126kmの長距離と長大な電車運転の例はあまりない。したがつて湘南電車の設計には長距離、長編成運転に適するよう考慮がはらわれている。
 いわゆる電動列車(長編成電車列車)を運転する場合動力装置を集中配置する場合と、これを分散配置する場合とが考えられる。現在運転されている電車は前者の場合で、電動車1両に平均1両の付随車をけん引するのである。したがつて電動車1単位の出力は次第に大きくなり、その重量も増加し線路や乗心地に与える影響は悪くなるのである。しかるに後者を採用すれば電動車の数を増すことによりその単位出力を小さくするととが出来 したがって電動機を小形軽量にすることが可能で線路や乗心地にはよい影響を与える。又電助軸を増すととにより効果的に電気ブレーキも可能となる。しかしこの動力装置を分散する方法、すなわち編成の全電車を電動車とすることは、未だ研究の途上にあるので現在計画の湘南電率には前者の場合を採用した。
湘南電車の編成を示せげ第1図のとおりで、基本編成の 10両は沼津寄りとし、付属編成の5両は東京寄りに増結せられる。本年度に新製されるのはモハ、クハ、サハの3形式で、クハユニ、サロ、サロハの3形式はそれそれクハ、サハを充当する予定である。

 


新製される電車の形式および主要諸元を示せげ第1表のとおりである。

第1表 

項目単位電動車 (モハ80)制御車 (クハ86)付随車 (サハ87)
全長(連結面間)m20.020.020.0
車体長m19.519.519.5
車体巾m2.8052.8052.805
車体高(レール面上)m3.6503.6503.650
座席定員927989
自重t推定 48.0推定 32.0推定 31.0
台車形式-TR39ATR36ATR36A

1時間定格出力


(1350Vにおいて)

kW500
最大運転速度km/h110110110

電動車には MT40B 形主電動機を使用する。この主電動機は終戦後製作のモハ63形電動車に装備されている MT40形主電動機を改良設計したもので、その出力は端子電話675Vで128KWにおよび狭軌鉄道における電車用主電動機としては最大のものである。
湘南電車は各停車の区間列車の性格を有するものであるがら、高加速度、高減連度の電車たることが望ましい。しかも東京・大船間においては相当の長区間運転をするのであるから、その均衡連度を高くして運転時分の短縮をはがるととが必要である。そこでこれらを考慮して歯車の歯数比を2.56(そハ63形は2.67)に選んである。10 両編成(15両編成の場合も同じ)の性能を示せば第2表のとおりである。とれは現在運転中の旅客列車と比較すれば加速度は倍近くにも達し、また電車においては電磁ブレーキを使用することによって減速度を大きくすることが出来るので、東京・小田原間90分(現行114分)、東京・沼津間145分(現行182分)のスビードアップも可能となるのである。

3. 電車の構造

1 車体精造 

電車の重量を出来るだけ軽くすることは引張重量を小さくし、消費電力を節約するので今度の設計にあたつては車体の重量を増さずに強度を増す構造を採用した。すなわち台枠は従来の半銅製客電車の共通の構造である両枕梁間の中梁をやめて、側梁・枕梁のみとし車体にがかる垂直方向の荷重を側構でもたせ、車端に作用する引張および圧縮の力は枕梁と側梁の結合を強固にして、直接枕梁から側梁へ伝える熊造としてある。
したがつて側間は従来の電車より窓の高さを低くして腰板・幕板の高さを高くし、また側柱をのばして屋根の形状に曲げ、長を垂木の部分に通しごこまで幕板鋼板を延長してその術造が?くしてある。床板上の一部の荷重は側梁と側梁との間に渡してある横梁に支えられているが、との横梁も重量を輕くするため形押の鋼板を採用している。
床板は台枠に直接取付ける構造をやめて、台枠上に根太を設けでとれに取付け、台枠よりくる振動を幾分でも防ぐことが出来るよう考慮がはらわれている。

2 室内設備 

客室の構造は第2,3,4図に示すように客車とほぼ同一の構造で車の両端に出入台を設け客室とは引戸によつて仕切られている。編成の両端を除いて
連結部はすべて貫通式とし、通路には幌を用いてある。
とのように出入口を両端にもつてゆくことは旅客の乗降に不便を与え、とくに朝タの通勤時には相当の混雑が予想されるが、通勤時以外の時間には比較的長距離の旅客が落着いた旅行が出来るよ5にこの構造が採用された。
出入口の広さは従来の客車よりも広くし、扇は開閉機械にて操作する。
腰掛は横形座席とし両端は開閉機械を収める都合で長手座席としてある。腰掛の幅および間隔は発来の客車より幾分つめて通路を広くし混雑を緩和している。窓は上昇式の広幅一段窓としよろい戸を設けである。
天井は一重丸屋根としその両側に天井燈を電し座席を明くし、その中央には新形の通風器が取付けにある。
長距離旅客の便をはかるため、制御車、附隨事には便所を出入台に設けたが、電動車には構造上無理があるので設けていない。


3 台車 

電車の長距離運転と運転速度が高速化されるにつれて、車両の乗心地が開題になる。とれは台車の車体に与える振動が大いに開係するので、さきに国鉄工作局、鉄道技術研究所が中心に各車輔會社を交えに高速台車振動研究会を組織して、車両の振動理論の解析、基礎実験等を進め、その研究の成果をとり入れてに数種の台車を試作して試験を行つた結果、比較的優秀な成横を得たので、とれにもとづいて湘南電車の電動車にはTR39A形(DT16)制御車、付随車には TR26A 形の台車が探用される。
TR39A 形台車はモハ 63形に多く使用されているTR35 形と同様コロ軸受、軸バネ式とし、さきにモハ63形に採用された TR39に改良を加えたものである側梁は一体鋳鋼製とし重量を軽くするためその肉厚も許しうる最少のものとし、横梁・端梁は強固に組立られて電動台車として充分な強度を有している。車両の乗心地をよくするため軸バネ・枕バネの剛性を出来るだけ小さくし、枕バネは摩擦を少くするためバネ板の枚数を少く、揺れ枕釣の長さを長くして横搖れの周期を長くし、横方向の衝撃を緩和して蛇行動の場合の共振速度を低くした。
TR36A形台車は従来の TR35形(コロ軸受、軸バネ式)を同様の趣旨で揺れ枕釣の長さを構造の許す範囲で長くしてある。

4 ブレーキ装置

 湘南電車は最大 15両編成なので従来の AE電磁空気ブレーキ装置ではブレーキ効果が不充分であるため、ARE 式電磁空気ブレーキ装置を採用する。この ARE式は AE式に中継弁を附加し従来5kg/?cmに込められた補助空気だめの圧力空気をプレーキシリンダに供給するととを改め、A 動作弁に連動する中継弁の作用にょつて元空気溜の圧力空気(8~6.5kg/cm)を直接ブレーキシリンダに供給する。かくすることによつてブレーキシリンダのビストン行程に関係なく制動管の減圧量に比例したブレーキシリンダ圧カが得られるから、混雜時における荷重の増加や制輪子の磨耗によつてビストン行程がのびてもブレーキカが低下するととなく作用するのである。又補助空気溜および附加空気溜の容量が従来のものに比し小さいので又込め時間が短縮せられ階段ゆるめを小刻みに行うことが出来て円滑なブレーキ作用を行うととが出来るのである。
しかし長編成になるとこのブレーキ装置でも充分な階段ゆるめが出来ないので、新だにゆるめ電磁弁を用いて電気的に迅速に階段ゆるめを行ら方法が考えられにいる。
5 電気裝置 主電動機はさきにのべたようにMT40B形を、バソタグラフには PS13A形、斷流器は SR106 形、制御器は CS5形とし最近のモハ63形と同様電流の遮断を良好ならしめているが、その他電動発電機、空気圧縮機などは一応モハ63 形と同一のものを装備するが、現在の室気圧縮機ではその容量が不足するので、高速回転、大容量の空気圧縮機がすでに試作されその試験結果をまつて順次取付ける。また電動発電機は電動車のみに取付けたのでは電灯負荷で一杯のため、とくに制御回路の電源用として編成中の制御車1朝に電動発電機がとりつけられるのである。
電動車は従来のものと異なり、運転台がなく運転室は両端の制御車だけにあるためにとれらの電気機器はすべて前方の制御車から遠方制御されるわけである。しかし各電動車において操作すべきスイッチ類は電動車の出入台の仕切羽目内におさめる。制御車の運転室は全室仕切の構造とし左側に蓮転士席、右側に助士席(長距離運転をするための助士が乗務することになつている)が設けてある。運転室は長距離運転に適する構造とし、その設備もスマートなものとしてある。従来の電車の設備のほかに新に設けられるものとしては、

  1.  電車線電圧を示す電圧計
  2. 電気式速度計
  3.  過電流表示裝置。電動機が過負荷して断流器が開いたととを表示する裝置
  4. 非常ブレーキ用車掌スイッチ
  5. 合図用100Vプザー

が考えられている。
各客室および運転室には新形の電気暖房器をそなえている。その客室は1車当り12KWで、これらは各運転台から自由に総括制御出来る。また15両の長編成になつた場合各出入口の扉の開閉を円滑敏速に行うため、従来車掌のみがスイッチを扱つて開閉を行つていたものを後部の事掌と前部の助士が同時にスイッチを扱い得る構造とし、停車時分の短縮をはかるため前部と後部の扉の開閉を単独に行える。

項目単位湘南電車(10輛)湘南電車(15輛)電機列車(EF58 1輛+客車13輛)電機列車(EF58 1輛+客車15輛)
列車編成-4M.2T.4Tc6M.4Tc.5T客車13輛客車15輛
全長m200300280320
積車全重量t380570520585
空車全重量t430645580650
座席定員882131310961272

1時間定格出力


(1350Vにおいて)

kW2000300016001600
単位重量当出力(積車)kW/t4.654.652.82.6
加速度(積車)km/h/s1.251.250.610.54
釣合速度(全界磁) 0‰km/h82828280
釣合速度(全界磁) 10‰km/h62626362

第2表

4. むすび

長距離電車の構造としてこれで滿足するものではなく性能の向上のため今後なお研究を行うものとしてつぎのようなことが考えられる。
(1)振動及願音の除去を計り乗心地を改善する。
(2) 制御裝置の或良。現在の制御段数よりはるかに多い多段式制御裝置とし図滑な高加速度をうる。
 (3)ブレーキ裝置。電気ブレーキを常用すると共に自助的にブレーキ率を變える定減速空気ブレーキ装置とする。
 (4)交流を電源とする螢光燈照明
本年秋には、新製の湘南電車が15 両編成で東海道を走る様は復興途上にある國鐵に間を与えるととであろう。

(工作局・動力事課)

 

コメント

このブログの人気の投稿

東海道本線鶴見・横浜間における運転事故 報告書 全文(前編)

 1963(昭和38)年11月9日に発生した、脱線事故、通称「鶴見事故」に関する監査報告書の全文(今回は前編)をアップさせていただきました。  この事故は、走行中の二軸貨車(ワラ1)形が走行中に脱線して、電柱に衝撃、脱線した貨車はそのままの旅客船を支障、すぐ横を走っていた電車と接触して電車は跳ねられるようにして、対向する下り電車の側面に衝突、下り電車4両目後部から5両目を破砕しながら乗り上げて停止する悲惨なもので、上下列車合わせて161名の死者と120名の重軽傷者を出す大惨事となった事故です。 この事故の原因は、走行中の貨車によるせり上がり脱線と言うことでしたが、その後原因を調査するために狩勝実験線として廃線となった区間を生かして走行実験などが繰り返されることとなりました。 結果的には原因は複合的な要因による競合脱線と言うことでしか結論は出ず。脱線しにくい踏面等が考案されていきましたが。 ワラ1形式自体は欠陥貨車というレッテルを貼られることなく、59年2月の直行系輸送へのシステムチェンジまでは、汎用貨車として利用されることとなりました。 今回は、前編と言うことでアップさせていただきました。 引き続き、 後編 もアップさせていただきます。  本記事の引用は歓迎します。その際は、出典:[ブログ名] [日付] と明記ください *********************************************************    東海道本線鶴見・横浜間における運転事故 (写)                                                                       監委事第2号         ...

三河島 駅列車衝突事故 特別監査報告書 全文

資料として、三河島事故に対する特別監査報告書の内容全文をここにアップします。 国鉄監査報告書昭和36年版 p277~P288から引用しています。今回の三河島事故では、最初の衝突後、十分列車防護をする時間が有ったにも関わらず、当事者(貨物列車乗務員、及び下り電車乗務員)が適切な防護措置を取らなかったこと、(本来であれば、支障した時点で前後の列車に対し、発煙筒・信号短絡等の措置を取ることが義務づけられている。)さらに、乗客がドアコックを開放して線路に降り立ったこと等の複合的な要因が重なり、支障した下り電車が対向の電車と接触大破して、上り電車乗務員が死亡乗客の多くも犠牲になった事故で、運転士・機関士の列車防護措置に対する怠慢が指摘されたほか、組織として支社が十分機能せずに管理局にしわ寄せが来ていること。更に管理局も現場への管理が形式的文書的な指導になりがちで、現場が十分に実務指導等を行える状況になっていないことなども指摘されており、東京鉄道管理局の三分割に繋がる、組織の改編などにも言及されています。  本記事の引用は歓迎します。その際は、出典:[ブログ名] [日付] と明記ください     常磐線三河島 駅列車衝突事故特別監査報告書提出について (写)      監委事第 20 号    昭和 37 年 6 月 14 日 運 輸 大 臣   斎 藤 昇 殿 日本国有鉄道監査委員会委員長 石 田 礼 助  常磐線三河島駅列車衝突事故特別 監査報告書提 出 に つ い て (報告) 鉄保第123号の御指示に基づい て、常磐線三河島駅列車衝突事故に関し、調査検討した結果を別冊のと おりとりまとめましたので御報告いたします。 常磐線三河島駅列車衝突事故特別監査報告書 昭和37年5 月4日付で、常磐線三河島駅列車衝突事故 に関し、運輸大臣より事故の原因を究明するとともに、特に国鉄の管理体制のあり方について、 特別監査を行なうよう御指示がありましたので、 監査委員会において、昭和37年5月7日以降17 回にわたり委員会を開催し、審議いたしました。   事故の状況は、後に述べるとおりでありますが、本委員会は直接の原因のみならず、事故防止の観点から、広く間接的な諸原因について究明する事が重要であると考え、国鉄補本社役員、局長、関東支社長...

東海道本線鶴見・横浜間における運転事故 報告書 全文(後編)

東海道本線鶴見事故の事故報告書後編となります。  本記事の引用は歓迎します。その際は、出典:[ブログ名] [日付] と明記ください 前編は こちら をクリックしてください 鶴見事故は起こるべくして起こったと言うよりも予測不可能な事故であったと言えるわけですが、競合脱線という言葉がこの時初めて提起されたわけですが。 結局、最終的には複合的な要素があったとは言え、どれが確実な原因と言うことは特定できず、最初の脱線を引き起こしたワラ1(走行試験を省略)していたことに対する非難はあったものの、最終的にワラ1そのものに問題があるとは言えず、車輪踏面の改善などが行われ、昭和59(1984)年の貨物輸送のシステムチェンジが行われるまでは、二軸貨車の中核として活躍することとなりました。 ワラ1形貨車 画像 Wikipedia Ⅲ 事故発生の背後的問題 1 類似事故の究明不足 先に述べたように、 今回の事故の原因はいまだ最終的には究明されていないが、 過去においても類似事故が相当数見受けられる。 国鉄の脱線事故は、昭和27年以降は年々減少してきたが、 なお最近5箇年間の列車脱線事故のうち、その原因が線路と車両とに関係があると思われるものが69件あり、このうち、主体原因が不明確で線路関係と車両関係のそれぞれの条件が競合して悪作用した結果であるということでその原因を処理したものは9件を数えている。 このように、 主体原因が不明確のまま競合事故として処理されたものがいまだあることは、事故の原因の究明が部分的なものにとどまり、総合的あるいは動的は握に欠けるところがあつたことによるものといわざるを得ず、このようなことが今回の事故原因のは握を困難にしているものと思われる。 なお、事故の原因を究明し、 これが対策を発見するためには、 多数の事故を統計的手法により分析整理することが効果的であると思われるので、 今後実効的な解析の推進に努力する必要がある。 2 線路と車両の総合的管理の不足 国鉄では輸送の安全を確保するため、 運転、 施設、 電気、 車両等それぞれの分野において、 専門的に深い研究を行なっており、 高度の技術水準にあるが、これらを総合した研究特に線路と車両との動的関係においての総合的究明には不十分なものが見受けられる。 線路においては、部分的には車両の動的影響の測...